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役者の脳とメンタルヘルス【演技の神経科学②】

こちらの記事は前回の記事の続きです。役者とメンタルヘルス【演技の神経科学①】

前回の記事の中で、役者が役になりきっているときの脳の状態として、

自己意識や自分の知識を抑制して、さらに意識を分割させて役になりきると同時に、自分自身を監視している脳の状態

であることを解説しました。

では、それがメンタルヘルスにどのように関係するのでしょうか。

今回はこの役者の特異的な脳の状態からメンタルヘルスについてどんなことが生じているか、ということを考察してみようと思います。

1.自己意識とは

自己意識とは、自分自身に向けられる意識のことを指し、その意識の向けられる自己の側面によって2つに分けられます。

①他者が観察できる自己の外面(容姿や振る舞い方など)に向けられる公的自己意識
②他者から観察できない自己の内面(感覚,感情,思考など)に向けられる私的自己意識

役者はこの2つの自分への意識を分割させて、「自分を抑制して、役になりきる」という作業を器用にこなしています。そういう意味でセルフコントロールが非常に上手な方が多いのかもしれません。

一方で、役者としての仕事が多忙になればなるほど、「自分を抑制する」時間が長くなるというのも過言ではありません。

2.演じているときは幸せを感じにくい脳の働きをしている?

表現を仕事とする人にとって、仕事があること、役をいただけることはとても幸せなことだと思います。「この人にお願いしたい」という声が挙がったと聞いただけでも、幸せなことに間違いないですよね。

ですが、実は役を演じている最中の脳の状態は「幸せを感じにくい」状態なのです。

ひとつ前の記事(こちら)でも解説したように、役になりきっている最中に活性化する脳のある部分があります。それが楔前部という部分です。

これまでの研究でこの楔前部の活動は、否定的な自己意識や、心の迷いや、執着する心に関係することが示されています。

さらに最近の研究では、ヒトが幸福を感じる脳の活動の一部がわかっています。

ここでは、「右楔前部の安静時活動が低いほど主観的幸福得点が高い」ということが画像研究で判明しました。

※「幸福の脳活動を解明 -大脳右楔前部の安静時活動が低いほど主観的幸福得点が高い-」https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2019-08-26-0

つまり、この楔前部の活動が活発である状態が続くと、心の迷いが生まれたり、主観的な幸福感を感じにくい状態になるのです。

でも実際、役になりきっているときだけでしょ?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、脳にはこんな性質があるのです。

3.理解しておきたい“神経の可逆性”という性質

脳については、近代に入って研究がどんどん進んでいます。

少し前まで、「脳は小児期を過ぎると変化しなくなり、 大人になる頃には固まってしまう」と、多くの科学者はこう信じていました。

しかし、ついこの十数年の研究の進歩でそれが誤っていたことが判明したのです。

脳は生涯を通じて変化できる、柔軟なもの。

神経科学者はこの性質を「神経可塑性」と呼んでいます。

では、神経可塑性はどう働くのでしょうか。

脳を動的に接続された送電網とみなすと、そこには思考や感覚、行動が発生する度に明かりがつく経路が何十億本も走っています。

なかには伝達速度の速いものがあります。

この速度が速いものは、習慣、つまり定着した思考、感覚、行動の様式ということになります。

私たちがよく使う様式で考えたり、行動したり、感情を感じるたびに、この経路は強化され、脳の信号がこの経路を通りやすくなるのです。

では別の考え方をする場合、新しいことを学習する場合、別の感情を感じる場合はどうなるのでしょうか。

これまでと違った様式を積極的に取り続けると新しい経路が切り拓かれますが、そこを通り続けていると、脳はその経路をより頻繁に使うようになり、その新しい思考、感情、行動の様式が習慣になり、古い経路はだんだん使われなくなり、弱まります。

イメージとしては、習慣化された行動や思考、感覚の脳の経路は“高速道路”のように快適に高速で情報が行き来します。一方で、新しい考えや行動は“道なき道”だったものが、何度か通ることで、“獣道”なり“歩道”になる、といったようにどんどんと整備されていきます。

道なき道を進むより、歩道を進んだ方が早く移動できますよね。

このような神経可逆性が、役者の脳に与える影響はどんなことが考えられるのでしょうか。

良い側面で考えると「役になりきる」状態を繰り返すことで、演技力が向上する、というが大きなメリットとなるでしょう。

一方で、「自己を抑制する」活動や「心の迷いが生まれたり、主観的な幸福感を感じにくい」脳の使い方、つまり神経回路が強化されていくのです。

検索エンジン「役者」と入れると検索候補に「自分がわからなくなる」というワードが出てくるほど、実はこの関連性を体感されている方は多いと言えるのではないでしょうか。

この思考パターンや感覚が強化されていくと、仕事以外のときも自分のことがよくわからない状態になったり、自分の感情にも気づきにくくなるかもしれません。また心の迷いがいつも続いたり、幸せを感じにくい状態にもなりやすいかもしれません。

そういう意味では、役者さんは自分のメンタルが不調になっていても気づきにくいとも考えられるので、意識的にメンタル面のケアをしていくことが、長く活躍していく上では必須なのではないかと考えています。

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