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役者とメンタルヘルス【演技の神経科学①】

1.近年の芸能界のメンタルヘルス

近年、芸能界や音楽、アートなど表現活動をする方の自死のニュースが増えています。

「とても残念ですね」

「こうなる前に気づいてあげられなかったのか」

「私たちにはわからない悩みがあったのかもしれませんね」

などいろいろなコメンテーターが口々にコメントをしますが、確かにその通りだと思います。
ですが、それだけでは終わらせてはいけない問題や課題が山積みです。
多くの人に元気や勇気を与えることのできる表舞台での仕事をする方々のメンタルヘルスについてもっと深く理解をしていく必要があると感じています。

そもそも日本は若者の自殺大国です。
15歳〜39歳までの死因の第1位、40歳〜49歳までの死因の第2位、50歳〜54歳まででは第3位と、極端な選択をして亡くなる方が多いのです。※1
なので特別芸能界界隈で急増しているわけではないのですが、実際報道で目にする機会が多くなった感覚があるのも事実です。

2. 演技中の役者の脳の活動は「自己が抑制され、役柄が役者を乗っ取ったような状態」

当カウンセリングルームでは、俳優さんをはじめ、音楽家やアーティスト、ダンサーの方など表現活動をされる方へのメンタルサポートを行っております。
色々な方とお会いする中で「表現活動をする人は、感受性豊かなんだろうな」や、「繊細な感覚を持っているんだな」、また「とても真面目だな」という側面はさまざまな場面でお見受けします。

ですが、もう少し表現活動、とくに役者としての活動をしている方の特異的な部分があることを指摘するこんな研究があります。

3. 演技中の脳は活動が低下するところと活発になるところが分かれる

カナダのマクマスター大学の研究チームが行った研究で、役を演じている時と自分自身でいるときとで、脳の活動パターンが異なることが、ジャーナル誌「Royal Society Open Science」で発表されました。2

普段から演技指導を受けている人を対象に行った実験では、MRI装置の中に入り、表示されたさまざまな質問に答えるよう要求されました。またただ答えるだけでなく、役者はさまざまな視点から答えることを求められ、そして「ロミオとジュリエット」に出てくる役として答えることも求められました。
その質問は、「ロミオとジュリエット」のように悲しい恋をテーマとした話にはよくある、
・「招待されていないパーティーに行きますか?」
・「もし恋に落ちたら、ご両親に話しますか?」
といったものでした。

役者はこのような質問を4つの役割に基づいて考えて答えるように指示されました。
・自分自身として
・特定の親友になりきって
・「ロミオとジュリエット」の与えられた役として
・自分自身として答えるがイギリス訛りの英語で話す

このような役割を順不同で与えられました。

その結果、与えられる役割によって脳の活動する領域が異なることが明らかとなりました。

①特定の親友になりきって答えるときは、自分自身として答えるときと比較して前頭前皮質のとある領域の活動が低下

②ロミオとジュリエットの役を演じているときも同じ反応があった。

③さらに演じているときは、前頭前皮質で活動が低下した領域はさらに2つあり、それはどちらも自己意識に関連する領域だった。

④さらにこの役になりきっているときに楔前部(意識・注意を司る)という領域が活性化。

難しい話になってしまいましたがわかりやすくまとめると、
役者が役になりきっているときは自己意識や自分の知識を抑制して、さらに意識を分割させて役になりきると同時に、自分自身を監視している脳の状態があることが明らかとなりました。また自分の考えを馴染んだイントネーションでない訛りで答えても同様の活動が見られています。

論文著者のSteven Brownは「俳優は意識を分割する必要があり、彼らは自分自身を監視し、同時にキャラクターの中にいる必要がある」と考察で語っています。
もちろん、このような脳の働きを意識しながら演技をしている俳優さんは少ないと思います。ですが、「演じる」ということで脳の活動に特別な変化を起きているということは間違いがないでしょう。

では、このような俳優の脳の活動の特性とメンタルヘルスにどのような関係があるのでしょうか?
詳しくは次回、またお話します。

※1厚生労働省:「人口動態統計に基づく自殺死亡数及び自殺死亡率」より
※2 Steven Brown, Peter Cockett and Ye Yuan 2019 The neuroscience of Romeo and Juliet: an fMRI study of acting , Volume 6 Issue 3 
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.18190

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